国際洞窟・カルスト年2021 関連イベント
【沖縄洞窟ウィーク2021】
~洞窟とカルストと人とのつながり~
2021年11月21日~28日の8日間、沖縄県の洞窟やカルスト地域の自然・文化を市民の皆さまに親しんでいただき、その保全に寄与することを目的に、「沖縄洞窟ウィーク2021」が開催されました。このイベントは国際洞窟学連合のプロジェクト「国際洞窟・カルスト年2021」と連動したイベントで、日本洞窟学会が主催し、株式会社南都と沖縄県立博物館・美術館の共催で行なわれました。期間中は、洞窟のスペシャリストたちによるディープすぎるイベントが各種用意され、おきなわワールドと沖縄県立博物館・美術館の二つの会場で催されました。
「洞窟」とは?
人が入ることのできる地下空間で、洞窟の入り口の長径よりも奥ゆきや深さのほうが長いものを、一般的に洞窟と呼んでいます。洞窟は、そのでき方により大きく5種類に分けられます。
①雨水や地下水で岩石が溶かされてできた「溶食洞窟」、②水や風で削られてできた「侵食洞窟」、③火山の噴火でマグマ(溶岩)の中に形成された「火山洞窟」、④断層や節理など岩の割れ目の崩落などでできた「構造洞窟」、⑤鉱山など人口的に掘られた「人工洞窟」などです。日本国内では溶食洞窟(鍾乳洞・石灰洞)がその大半の数を占めています。
※参考:日本洞窟学会編 「国際洞窟・カルスト年2021」パンフレット
▲溶食洞窟(鍾乳洞)
▲侵食洞窟(海食洞)
▲構造洞窟(竪穴状の洞窟など)
「カルスト」とは?
石灰岩や石膏など、水に溶けやすい岩石が分布する地域で、雨水や地下水がその地表や地下を溶食し、漏斗状のくぼ地(ドリーネ)や洞窟、地下河川などが見られる地形・地域のことをカルストと呼びます。
※参考:日本洞窟学会編 「国際洞窟・カルスト年2021」パンフレット
▲沖縄県本部町のカルスト「大堂ポリエ」
▲山口県美祢市のカルスト「秋吉台」
「洞窟・カルスト」と人とのつながり
私たちは、古代から現代まで「洞窟」や「カルスト」と関りを持ちながら暮してきました。例えば、人類は古代からカルスト地域の洞窟を祭祀や喪葬の場として利用し、カルストが育む地下水を生活水や田畑の灌漑に利用してきました(世界人口の約10%の人々はカルスト地域から水を得ているといわれています)。また近年では、洞窟やカルスト地域の特異な景観を観光産業に活用し、大きな経済効果も生んでいます。
160 の島々からなる島嶼県沖縄においては、その表土の1/3 が石灰岩で覆われ、カルストが広く分布しています。その地底には600本以上の洞窟が確認されており、その数は国内の洞窟総数の約2 割にあたります。これらの洞窟からは、古代の人々が使用した土器・貝器・石器などの利器や、食料とされた魚・カニ・イノシシなどの動物遺骸、手厚く葬られた埋葬人骨などが出土するなど、旧石器時代まで遡ることのできる洞窟遺跡が数多く確認されています。
またカルスト地域は地表河川が少ないかわりに地下河川が発達し、人々は洞窟や崖からの湧水を生活水として利用してきました。さらには洞窟や鍾乳石などが信仰の対象ともなり、今でも拝されている洞窟が少なくありません。その一方で、近年は土地の乱開発などから、洞窟や森林の消滅、地下水の枯渇が著しく進んでおり、カルスト地域の自然環境の悪化が懸念されています。
▲世界最古の貝製釣針(23000年前)が出土した沖縄県南城市「サキタリ洞遺跡」
▲カルスト地域の湧水、沖縄県南城市「垣花樋川」
▲国内外の旅行者が訪れる観光鍾乳洞「玉泉洞」
▲洞窟をねぐらとするオキナワコキクガシラコウモリ
国際洞窟・カルスト年2021 (INTERNATIONAL YEAR OF CAVES AND KARST 2021)
「国際洞窟・カルスト年2021」は2021~2022 年の2ヵ年の間、洞窟やカルストの探査・研究・保護のための国際組織「国際洞窟学連合」によって進められているプロジェクトです。このプロジェクトには世界各国100 以上の関係組織が参加し、一般市民の人々を対象に、洞窟やカルストに親しむ機会を提供する様々なイベントを行っています。また,これらのイベントが永続的な活動となり、世界中の洞窟・カルストの保全が促進されることを目指しています。
「国際洞窟・カルスト年2021(動画)」
International Year of Caves and Karst MOVIE>>
※世界中の洞窟やカルストの素晴らしい映像とともに「国際洞窟カルスト年2021」の目的について紹介した動画です。(制作:国際洞窟学連合(UIS))
沖縄洞窟ウィーク2021
2021年11月21日~28日の8日間、沖縄県の洞窟やカルスト地域の自然・文化を市民の皆さまに親しんでいただき、その保全に寄与することを目的に「沖縄洞窟ウィーク2021」が開催されました。
イベント期間中は、おきなわワールドと沖縄県立博物館・美術館の2 つの会場で、洞窟の魅力を伝える「公開講演会」や「洞窟パネル展」、世界各地の洞窟や琉球列島の洞窟生物を紹介する「洞窟写真展」、洞窟・カルストジオツアーとして「洞窟のコウモリ観察会」「洞窟生物観察会」「洞窟の形成について」「洞窟写真講習会」など、洞窟のスペシャリストたちによる深すぎる内容のイベントが数多く催されました。
▲「沖縄洞窟ウィーク2021」オープニングセレモニー
▲オープニングセレモニーで開会挨拶をする日本洞窟学会山田努会長
「沖縄洞窟ウィーク2021」で行われたイベント
洞窟のコウモリ観察会
【日程】11 月20 日(土)・28 日(日)17:30~19:30
【場所】おきなわワールド(玉泉洞・観光洞エリア)
【講師】田村 常雄氏(コウモリ研究家)
「洞窟のコウモリ観察会」では、玉泉洞に生息するオキナワコキクガシラコウモリを観察する観察会が行われました。通路照明が消えて暗闇となった観光洞エリアの中で、参加者の皆さんはコウモリ探知機(バットディテクター)を使ってコウモリの発する超音波を聴く、という特別な体験を楽しみました。田村先生のコウモリ愛にあふれる解説により、参加者の皆さんのコウモリへの関心は、より一層深くなったようでした。
▲洞窟のコウモリ観察会
(写真左)沖縄に生息するコウモリについて解説する田村先生
(写真右)バットディテクターと赤色のライトを使ってコウモリを観察
洞窟生物観察会
【日程】11 月21 日(日)17:00~19:30
【場所】ガンガラーの谷内のイナグ洞・イキガ洞
【講師】西山 桂一氏(洞窟生物研究家/洞窟の森 主宰)
「洞窟生物観察会」では,イナグ洞・イキガ洞とその周辺のカルスト谷にて洞窟生物の観察会が行われました。事前に西山先生オリジナルの洞窟生物学習テキストで30分ほど洞窟生物に関する学習を行い、洞窟生物の奥深い世界を知ったのち洞窟へ向かいました。洞窟生物の探査を初めて体験した参加者の皆さんは、洞窟のなかで時間を忘れるほど楽しんでいました。
▲洞窟生物観察会
(写真左)洞窟生物学習テキストでレクチャーする西山先生
(写真右)洞窟内で洞窟生物を探査する参加者の皆さん
※写真 田村常雄氏撮影
洞窟の形成について(ジオツアー)
【日程】11 月23 日(火・祝)10:00~13:00
【場所】おきなわワールド(玉泉洞・探検コース)
【講師】石原 与四郎氏(福岡大学理学部地球圏科学科 助教)
「洞窟形成について(ジオツアー)」では、玉泉洞の未公開エリアを探検しながら玉泉洞の鍾乳石や堆積物、溶食地形などの形成について学ぶジオツアーが行われました。3D測量などで明らかになった玉泉洞の最新知見を交えた解説など、実物を示しながら行う石原先生の解説に、参加者の皆さんは興味深い様子で聴き入っていました.
▲洞窟の形成について(ジオツアー)
(写真左)洞窟内の堆積物について解説される石原先生
(写真右)洞窟内の溶食微地形を観察する参加者の皆さん
※写真(左) 田村常雄氏撮影
洞窟写真講習会
【日程】11 月23 日(火・祝)14:30~18:30
【場所】おきなわワールド(玉泉洞・探検コース)
【講師】後藤 聡氏(アジア洞窟学連合 副会長)
「洞窟写真講習会」では,玉泉洞の未公開エリアにて後藤先生による撮影講習会が行われました。参加者の皆さんは、使用する撮影機材や撮影手法をテキストで事前学習した後、洞窟で実地講習を行い、持参したカメラやスマートフォンで試行錯誤を繰り返しながら、素晴らしい洞窟写真をものにしていました。
▲洞窟写真講習会
(写真左)洞窟写真のライティングを解説する後藤先生
(写真右)実習する参加者の皆さん
※写真 塩田沙代氏撮影
洞窟パネル展・写真展
【場所】Ⓐおきなわワールド、Ⓑ沖縄県立博物館・美術館
【期間・会場】Ⓐ11 月21 日(日)~28 日(日) Ⓑ11 月16 日(火)~28 日(日)
洞窟パネル展「洞窟の謎と魅力」
一般の方々の「洞窟」とはなんぞや?という疑問に答えるため、日本洞窟学会がポスターパネルを作成し、洞窟の調査・研究、探査などに関して項目ごとに概要をまとめたポスターが設置されました。
洞窟写真展「水と洞窟」
国内外の洞窟の写真や琉球列島に生息する洞窟生物の写真が展示され、洞窟探検家の方々や生物研究者の方々より提供された貴重な写真を数多く見ることができました。
▲洞窟パネル展(左)と洞窟写真展(右)を楽しむ地元の子どもたち
※写真 田村常雄氏撮影
公開講演会
公開講演会は,沖縄の洞窟とカルストの特異性や魅力などを市民の皆さまへ紹介することを目的に、第1部・第2部の2日間に分けて開催されました。
(第一部) 沖縄の洞窟とその魅力① ~沖縄のカルストと水、洞窟遺跡、観光資源の話題を中心に~
【日程】11 月26 日(金)
【場所】沖縄県立博物館・美術館(講堂)
【講演者】
吉村和久氏(九州大学名誉教授) 「沖縄のカルストと水」
山崎真治氏(沖縄県立博物館・美術館 主任学芸員) 「洞窟遺跡が語る人類史-沖縄の洞窟遺跡調査から-」
大岡素平氏(株式会社南都 玉泉洞再開発プロジェクトチーム) 「玉泉洞の歩みと自然資産の持続可能な活用」
第一部では、沖縄のカルスト形成の速度や石灰岩地域の水利用(地下ダム)など地下水に関する講演、サキタリ洞遺跡や武芸洞遺跡など沖縄各地の洞窟遺跡の最新研究に関する講演、開業から半世紀を経た「玉泉洞」を事例とした自然資産の持続可能な活用に関する講演などが行われ、大人に混じって参加していた高校生の方からも質問が出ていました。
▲沖縄県立博物館・美術館の講堂で行った公開講演会(第一部)
※写真 後藤聡氏撮影
(第二部) 沖縄の洞窟とその魅力② ~沖縄の地史・化石、民俗・文化の話題を中心に~
【日程】11 月27 日(土)
【場所】ガンガラーの谷(ケイブカフェ)
【講演者】
大城逸朗氏(おきなわ石の会会長)「地底から見たウチナーの自然」
新垣義夫氏(普天満宮宮司) 「ガマの話 ~人類と洞窟のかかわりetc.~」
第二部では,沖縄の洞窟から発掘された古生物の化石や人類の化石などから読みとることのできる沖縄の古環境に関する講演や、古代史と民俗事例から紐解かれる沖縄の人々と洞窟との関りについての講演などが行われました。
参加者の皆さんは鍾乳洞の中に居ながら洞窟に関わる講話を聴くという、特別な体験に満足気な様子でした。
※第二部の講演会場(ガンガラーの谷内のケイブカフェ)では10日間ほどYouTube配信を行い、200名の視聴がありました。
▲ガンガラーの谷のケイブカフェで行った公開講演会(第二部)
※写真 後藤聡氏撮影
2021年日本洞窟学会大会沖縄大会(第47回大会)
【日程】11月27日(土)・28日(日)
【場所】おきなわワールド
【対象】日本洞窟学会 学会員
期間中は日本洞窟学会第47 回大会も行われました。この大会では新型コロナウィルスの感染拡大を防ぐため、現地参加の人数を限定し、Zoom とoVice を用いてオンライン参加もできるハイブリッド形式となりました。学術講演会では口頭発表が14演題、ポスター発表が4演題行われ、南西諸島の洞窟にかかわる演題(地下水・堆積物・生物)、国内・地球外(火星)における洞窟研究の最新知見など、様々な興味深い研究が発表されました。
▲Zoom やoVice などを利用し現地とオンラインのハイブリッド形式で行った学会大会
※撮影 田村常雄氏撮影